第72回情報リテラシー連続セミナー@東北大学が,オンライン会議システムZoomにて開催されました。
今回は,立教大学経営学部教授 中原淳先生より,「組織開発を通じた“働き方の見直し”-学びに満ちた学校をめざして-」と題してご講演いただきました。
中原先生は,人材開発論,組織開発論がご専門で,「大人の学びを科学する」を研究テーマとされています。主に民間企業を対象に,人材開発,組織開発の共同研究を進めていますが,教育関連では,横浜市教育委員会との共同研究として「組織開発を通じた働き方改革」に取り組んでおられます。
横浜市は約500校の学校を抱えています。この横浜市の共同研究においては,いきなり全校で働き方改革を実施するのではなく,ショーケースとなるモデル校を作りました。そこでは,通知表の所見を廃止するといった細かい打ち手を決めるよりも,①若手教員,女性教員,ベテラン教員などを含めたコアチーム作り,②校内の働き方に関わる課題を見える化,③教員を巻き込んで対話,④実践する,というステップを踏んで働き方改革に取り組んだそうです。特に③のステップでは,教員個人の経験や感情を基に空中戦の議論を交わすのではなく,②のデータを基に,教員同士が対話し,納得感をもって打ち手を決めていくのがポイントということでした。このような成功事例を作り,少しずつ規模を大きくしながら市内に働き方改革を広めていきました。
組織開発は心理戦であるそうです。「ありがとうございます」「お疲れ様です」という組織のメンバーへのリスペクトから始めることが肝要とのことでした。逆に「○○をやめましょう」「〇〇を減らしましょう」は,これまでの取り組みを否定されているように受け取られるため,NGワードということでした。「これまでの取り組みには良いところがたくさんあるので,それを持続可能にするためにはどうすればよいか」という視点で進めることがよいというヒントもいただきました。また,良かれと思って出したアイデアの魅力よりも,相手のもつ抵抗感の方が勝ることが往々にあります。「葛藤がないところに学びはない」という気持ちで,初めからそういう声も巻き込んでいくことや,まずは仲間を作って面で対応することもポイントというお話がありました。
ご講演後のディスカッションでは,学校現場での働き方の見直しに直面する参加者の皆さんから多くの質問,感想が寄せられました。「管理職も教員も異動がある中,働き方改革を継続することが難しい」という問いには,「教委の立場ではリーダーを戦略的,安定的に育成する仕組みや学校が自ら決めてよいという仕組みを作る。管理職としては,教員と目標を共有しながら教員とのコミュニケーションの量と密度を濃くする」という話がありました。また,「一教員の立場で,働き方改革と言っても不自然で,教員として何から取り組めばよいか」という質問には,「専門的なツールや研修が必要と思わなくてもよい。例えば学年会などで最後の10分間で,全部言いたいことが言えたか,チームの動きはどうか,など,コンテンツではなくプロセスの話をすることで,見える化して次につなげていくことができる」と後押ししていただきました。
労働環境が厳しい職業は,今後選ばれないし,人材が去っていきます。中途採用の人材も増え,これまでのような学校の同僚性を構築,維持することも難しくなるかもしれません。また,人生100年時代であり,我々はどんどん変わっていく社会の中で,長く仕事人生を過ごすことになります。学び直しながら,健康に長期間働くためにも,働き方の見直しが必要であると認識することができました。
中原先生,貴重なご講演をありがとうございました。
(メディア教育論ゼミOG・中尾教子)