経験者の声
Information
氏名 Name | 南雲輝博 Akihiro Nagumo |
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学年 Grade | 情報科学研究科修士2年 GSIS M2 |
指導教員 Supervisor | 徳山豪 Takeshi Tokuyama |
留学期間 Stay | 平成24年9月9日-12月28日 Sep. 9th-Dec. 28th, 2012 |
受入先 Destination | スイス連邦工科大学チューリッヒ校 ETH Zurich |
はじめに
私は2012年の9月から約4ヶ月間、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(以下ETH Zurich)へ交換留学を行いました。本体験記では今後留学をする方の参考となるよう、私自身の留学を振り返って行きたいと思います。
きっかけ
私がスイスへの留学を考え始めたのは、2012年3月にスイスのチューリッヒで開催されたETH-Japanシンポジウムに参加したことがきっかけでした。初めての欧州の街並やスイスならではの美しい山々に感動するとともに、シンポジウムではETH Zurichを訪れ学生の方々とも交流する機会がありました。そういった中で、学生生活の中で一度は海外で学んでみたいという思いが強くなっていったのです。その後、海外留学担当の先生にスイス留学のための奨学金があることを教えていただき、研究室の先生方とも相談をしながら、本格的にETH Zurichへの留学を目指して準備を行うことを決めました。
留学の準備
留学を決断してから実際に渡航するまでの5ヶ月間程度では、主に以下の準備を行いました。
- 留学期間の設定
- 受け入れ先指導教員の決定・交換留学の書類準備
- 奨学金の申請
- ビザ、その他渡航の手続き
- その他の準備
通常留学には1年程度の準備期間をかけることが望ましいと言われており、体感的にもあまり準備に余裕はなかったように思います。
留学期間の設定
留学の準備としてまず行ったのは、留学期間の設定でした。1、2ヶ月程度の短期訪問を行うという選択肢もありましたが、所属研究室の教授や留学担当の先生とも相談をしながら、最終的には9月下旬に始まる秋学期からの約4ヶ月間の交換留学を行うことに決定しました。修士2年時後半での留学となり、修士論文の作成など不安な点もありましたが、交換留学の形にすることでより濃密な留学生活が送れると考えたこと、また正規留学のため寮などの留学生用のサポートが受けられることなどが決め手となりました。
受入先指導教員の決定・交換留学の書類準備
修士での交換留学においては、講義を受けて単位を取るような留学よりも研究を中心とした留学となるため、留学先の指導教員の先生をどのように見つけるかという大きな問題があります。私の場合は幸運なことに、3月の訪問時に自らの研究分野に近い研究室の教授の先生(日本人の方)とお話をする機会があり、交換留学を行うにあたって指導教員をお願いすることが出来ました。また、その方の紹介で、研究グループ長である先生にも指導教員をお願いすることができました。留学期間と指導教員の先生が決まり、その後はETH Zurichへ送る交換留学の書類作成を行いました。当時は修士2年の4月ということもあり、東京で就職活動を行いながらの留学準備で色々と大変でしたが、留学担当の先生からのサポートもあり、なんとか無事に交換留学の手続きを終えることができました。
奨学金の申請
交換留学を行うにあたり、私は日本学生支援機構(以下JASSO)の留学生交流支援制度へ応募し、留学期間中に奨学金を受給しました。金額は月に8万円で、私の場合は4ヶ月間の留学のため合計32万円の奨学金をJASSOより受給しました。また、所属する情報科学研究科からは渡航費用として20万円の旅費を受給しました。欧州への航空券や海外旅行保険、滞在許可申請、月々の寮費や生活費など(後述しますが、特にスイスは物価が高いので・・・)、留学を行うには現実問題としてお金が必要であり、こういった奨学金などを受給できたことは大きな援助となりました。
ビザ、その他渡航の手続き
渡航前の手続きにおいて、スイスを留学先として選択する大きなメリットが、多くの海外留学において必要なビザが不要という点です。日本国籍であれば3ヶ月以上の滞在の場合であってもビザが不要で、渡航後に滞在許可の申請を行うだけで良いので、通常は大使館に出向いてビザを申請し、発行を待つといった手続きがありませんでした。ただし、他の欧州諸国への数ヶ月以上の留学においてはほとんどの場合でビザが必要になると思います。私は当初インターネット上で情報を集めていましたが、不確かな情報も多く、早い段階で大使館に連絡をするのが良いと思います。 渡航前の手続きでもう一つ重要なのが、渡航先での住居の手配になると思います。私は交換留学であったため、ETH Zurichから事前に学生寮の案内を受け取り、大学側からの指示に乗っ取って手続きを行いました。もし正規の留学ではない場合、学生寮を使用できない場合も多く、その場合には宿泊施設などを個人で手配する必要があります。
その他の準備
その他の渡航前の準備としては、アパートや各種ライフラインの手続きがありました。私の場合は4ヶ月程度の渡航だったため、アパートはそのまま契約を続け、水道やガスなどは使用しないため、各種ライフラインへ連絡して停止してもらいました。住居を残す場合には、郵便物の転送手続きなど意外と見落としがちな点も多く、早めに準備を行うのが良いと思います。 私の場合は修士2年時の留学で就職先が決定していたこともあり、留学期間中に重なってしまう内定式への出席のために一時帰国することなども、内定先の企業と連絡を取りながら決定しました。 しばらく日本を離れるということは自分だけの問題ではなく、周りの様々な人や環境にも影響があることなので、通常の留学期間に比べると短い4ヶ月弱という期間の留学でしたが、想像以上に準備や手続きが必要でした。私はどちらかというとギリギリになってからやる気になるタイプの人間なので、準備などはやや後手に回っていたように思います。渡航前には長期渡航に備えた大型のスーツケースなども購入し、ようやく留学の準備が整いました。
留学
5ヶ月間程度の準備を経て、2012年9月上旬から12月末までETH Zurichにて交換留学を行いました。
渡航直後
12時間程度のフライトを経て、現地時間2012年9月7日にスイス・チューリッヒ国際空港へ到着しました。私の場合は3月に一度訪れていたこともあり、寮までの道のりもスムーズに移動することができました。寮に到着するとフラットメイト(共用部分をシェアする寮生)が出迎えてくれ、ここからついに4ヶ月弱の留学生活がスタートしました。 渡航直後は、指導教員の先生への挨拶、寮の手続き、滞在許可証の申請などを行いました。滞在許可証の申請では、顔写真の他に生まれて初めて指紋も採取され、「これが海外か・・・」などと一人で感動しました。同時期には、東北大学の研究室の同期も短期でチューリッヒを訪れており、海外生活に慣れることに必死なまま、あっという間に9月下旬のETH Zurichの秋学期を迎えました。
大学での生活
学期が始まると、大学では主に指導教員の先生の研究室に滞在していました。私の場合は、指導教員の先生が日本人の方ということもあり、留学期間中には生活面においても色々とサポートをしていただきました。大学では自分自身の研究を行いつつ、滞在先研究室での週2回のセミナーや、同じ研究室所属の先生が受け持っている講義などに参加しました。 研究室のセミナーは週2回45分ほど行われ、研究室に所属する学生以外にも国内外から色々な方が訪れており、様々な講演を聴講することができました。講義は毎週月曜と木曜に行われ、先生の話を聞く通常の講義が月曜に2時間、木曜に1時間あり、木曜には加えて演習形式の講義が2時間ありました。日本での講義では、1科目で週に1回90分、多くてもその倍程度が普通であったため、1科目で週に5時間の講義というのは非常に内容が濃いように感じました。3ヶ月程度の講義ではかなり分厚いテキストの内容を丸まる一冊分終えるなど、実際に日本での講義に比べてもかなり分量が多いと思います。講義中には学生が積極的に発言する場面も多く、居眠りをする学生などもほとんどいませんでした(一つしか受講していないので、他の講義ではわかりませんが・・・)。講義では学期中に3回のレポート以外にも発表が1回あり、ETH Zurichでは発表が講義の一環に含まれている場合が多いようで、これも日本とは異なる点であると感じました。発表は自分が選択したテーマに関する論文を読み、その概要を説明するというものでした。発表は当然英語であり、論文の理解と同じく語学面でも苦労しましたが、最終的には何とか発表を終えることができました。 もちろん、セミナーや講義の時間以外には修士論文の研究も同時に行っていました。指導教員の先生とは、滞在期間中に何度かセミナーを行い、様々なアドバイスをいただきながら研究を進めていました。滞在の後半には修士論文の作成も佳境に入り、あまり旅行にも行けずにパソコンに向かっていました・・・。
寮での生活
大学での生活と同様に、多くの時間を寮で過ごしました。フラットメイトは私以外に3人住んでおり、個人の部屋以外の共有スペースにはリビング、キッチンに加え、トイレとシャワーが2つずつという間取りになっていました。フラットメイトは、アメリカ人(男性)、インド系オーストラリア人(女性)、中国系アメリカ人(女性)という構成で、初めての寮生活ということもあり不安もありましたが、皆とてもフレンドリーでかなり安心しました。留学当初は、私自身も英語を話すのに躊躇する場面も多かったのですが、しばらくしてからは自分からも積極的に話せるようになっていきました(英語が通じていたかはまた別の話ですが)。特に最初は、英語を理解できなかった時に聞き返す、ということが中々出来ず、本当は理解していないのに理解したふりをして、中々会話が出来ないという場面がかなり多かったように思います。フラットメイトから後に、「最初はアキヒロは英語ペラペラだけど無口なんだと思ってたよ!」と言われたことがありました。日本人は英語が出来ないのが恥ずかしいと思ってしまう傾向にあり、私自身も最初は「英語下手だしな・・・」「聞き返したら失礼なのでは・・・」などと思っていました。ですが、実際に生活をしてみると、まずは自分から話すこと、その次に上手下手であるなと強く実感しました。寮ではホームパーティーなどもあり、他の留学生などとも知り合うことができ、楽しく過ごすことができました。唯一の不満点としては、キッチンの使い方。とにかく散らかっていました。スパイスや食べかけのものがキッチンに散乱していることが日常茶飯事であり、あまり自炊をする気にはなれませんでした。他の寮に住む日本人に聞いたところ、どこの寮もやはりキッチンなどは荒れており、日本人からすると大きなカルチャーショックかもしれません。
食生活
個人的に、チューリッヒでの生活で最も苦労したのが食事でした。世界物価ランキングで常に上位に位置するチューリッヒでは、特に食事の値段が高く、当時は円高でしたが非常に苦労しました。スーパーなどの食材はそこまで高くないため、自炊をすればある程度は節約できますが、先述の通り私の場合は寮のキッチンが戦場と化していたため、どうしても外食に頼ることが多くありました。一番安い学食は一食500円程度とリーズナブルでしたが・・・毎日のメニューの出来に大きな波があり、ひどい時には大皿にグリーンピースとマッシュポテトが半分ずつ、という(グリーンピース嫌いの私にとっては)拷問のようなメニューが出されていました。パスタなどが食べられる学食では、学生でも一食千円程度かかるなど、日本の学食に比べるとかなり割高でした。学食で千円のパスタを食べるくらいならレストランで食べれば良いのに、と思うかもしれませんが、チューリッヒではこれでも割安。留学中に何度も利用したハンバーガーチェーン・バーガーキングのセットですら千円程度、庶民的なレストランで食べると最低でも二千円はかかってしまうため、食事という点では他の欧州諸国に比べると少し大変かもしれません。ちなみに、帰国直前に「ETH Zurichの隣にあるチューリッヒ大学の学食が安くて美味い」という噂を聞いた時には涙が出ました。
旅行
大学以外での生活面で、欧州へ留学する大きなメリットが旅行だと思います。日本に住んでいると外国というのは特別な存在という感じですが、欧州では隣接する国へ電車で移動できるなど、かなり近くに感じることができます。スイスは、ドイツ、フランス、イタリアなど、日本からの旅行先として人気の国々と面しており、私もいくつかの国を訪れることができました。特に私の場合はサッカー観戦が好きで、欧州サッカーを生で観戦できたのは忘れられない素晴しい経験となりました。たまたま日本代表がフランス遠征をしたため、パリで日本対フランスの試合も観戦することができました。得点を決めた香川選手がこちらに走ってきた時には、人生で一番興奮したかもしれません(たぶん目が合いました)。イタリアのミラノなどはチューリッヒから電車で気軽に行けますし、欧州ではどこの国へ留学しても様々な国への旅行が気軽にできると思います。同じ欧州内でも、それぞれの国によって文化は大きく異なっており、一度の留学経験で様々な国の空気を体験できるのは、欧州への留学の非常に大きな魅力であると思います。
保健
留学を行うにあたり、旅行保険へは渡航前に必ず加入することになると思います(私の場合、4ヶ月で4万円程度)。さらに、スイスでは旅行保険だけでなく、3ヶ月以上の滞在の場合には国民健康保険への加入が義務付けられています。しかし、これがとても高く、安い保険でも月に2万円程度がかかってしまいます。実際に私と同時期に留学していた日本人の学生も10万円以上の保険料を支払っていました。私は「4ヶ月弱の留学なら免除されるんじゃないか・・・」という期待のもと、3ヶ月の期限ギリギリで免除申請を提出し、帰国2週間前に『免除申請の審査を行います』という書類を受け取りました(ちなみに役所から送られてくる書類は全てドイツ語ですが、放置せずにきちんと読まなければなりません)。後日この書類を持って役所に向かいどうすればよいかをと聞くと、あっさり「もう帰国だし保険入らなくていいよ」との返答でした。日本の役所とは違い、海外の役所の仕事は雑、良く言えば細かくないので、私のようなケースも多くあると思います。もちろん役所などから明確に指示を受けた場合には、余計なトラブルを避けるためにもしっかり従ってください。
帰国前の手続き
大学や寮での生活、旅行など、留学期間はあっという間に過ぎて行きました。12月になると、ついに帰国に向けての準備を始めました。私の場合、帰国前の準備としては、主に滞在許可証の失効手続きと寮の退去などがありました。準備と言っても、滞在許可証の失効手続きは役所に行って書類を書くだけ、寮の退去も部屋を片付けて書類を記入する程度であったため、渡航前の準備に比べるとさほど大変ではありませんでした。こういった手続きと共に、研究室の先生への挨拶などを終え、帰国の準備はほぼ整いました。帰国直前には友人とドイツへ旅行をし、ビールのついでに欧州でのクリスマスも体験することができ、最後まで欧州を満喫してついに帰国の日を迎えました。
最後に
私の場合は、4ヶ月弱というやや短めの留学でしたが、それでも十分に海外の文化を体験することができました。スイスには留学前に一度2週間ほど訪れていましたが、やはり実際に住んで暮らしてみると、旅行のような短期の渡航では感じることの出来ない様々なものを感じることができます。私の場合も、長期滞在をしたことでよりスイスの治安の良さや人々の優しさを感じることが出来たように思います。一方で、食事の面などは、短期旅行だと美味しいお店でお金を気にせず食べることも多く、実際に住んだことで日本の食事情はやはり恵まれているなと感じることもありました。このように、その国の良い面や悪い面を含めた本当の姿を知れることが、海外留学の大きな魅力であると思います。また、違う文化で育った同年代の人たちと交流をすることで、自分の固定観念がいかに視野の狭いものであるかを痛感することもあると思います。学生時代に海外の文化を知り、それによってより深く日本の文化について考える機会を持つというのは、今後の人生にとっても非常に有意義な時間になると強く感じました。「憧れの大学だから」、「良い研究をしたいから」、「色々な国を旅行してみたいから」、留学のきっかけは何でも構わない私は思います。場所や期間を問わず、留学から得られるものは必ずあります。大切なのは、「留学したい」で終わらせるのではなく、「留学する」という気持ちを持って実現し、自分自身で様々な体験をすることだと思います。今後留学を行う方にとって、この体験記が少しでもお役に立てることを願っています。
おまけー留学時の生活費など
- 航空券:14万円
- 保険:4万円
- 寮費:月480スイスフラン(4万円強。スイスではかなり安い)
- 交通費:月5千円(トラムの定期代など)
- 食費:月4~5万円