経験者の声
Information
氏名 Name | 湯山敦司 Atsushi Yuyama |
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学年 Grade | 情報科学研究科修士2年 GSIS M2 |
指導教員 Supervisor | 徳山豪 Takeshi Tokuyama |
留学期間 Stay | 平成25年12月8日-12月19日 Dec. 8th-Dec. 19th, 2013 |
受入先 Destination | 香港科技大学 The Hong Kong University of Science & Technology |
きっかけ
昨年度,研究室の先輩たちが留学していて,今年森山先生から案内をいただき,興味を持ちました.説明会に行ったときの留学担当の先生の「一度外国人になってみてください」という言葉が衝撃で,留学を決意しました.研究室の先生方の理解(留学の許可と受け入れ先の紹介)があったことも大きかったと思います. 元々,「この国に行きたい」とか「この大学に行ってこの研究をしたい」とかいう以前に,「どこでもいいから留学経験をしてみたい」という考えでした.最終的に,同じ研究室の宮下さんと二人で香港にある香港科技大学に留学してきました.
留学先の選定
長期の留学には不安があったため,プログラムの滞在先候補の中から短期間のものをと,香港を考えました.英語が通用するであろうこと,漢字が読めればどうにか生きていけるのではないかということ,で抵抗感が少なかったです.香港科技大学のレベルはものすごく高いと聞いており,その点は不安で仕方なかったのですが,いい経験になるだろうと腹をくくりました.
受け入れ教員とのやりとり
留学先の国・大学を決める以前に,相手側が受け入れてくれるかどうかが問題です.そのため,受け入れ先との交渉がうまくできるかという点が重要でした.幸い私の指導教官の徳山豪教授が,香港科技大学の鄭紹榮(CHENG Siu-Wing)教授を紹介してくださったので,この問題は(私は何もしていないのですが)クリアできました. 徳山先生から鄭先生に留学のお話を通して頂いたあと,鄭先生と具体的な話(滞在期間・宿泊先のこと)をメールでしました.このメールでのやりとり(もちろん英語)は英語に慣れている宮下さんに完全に任せてしまいました.一度私もメールを作ろうとしたのですが,きちんとした英語の文章作成は思っていた以上に大変で効率が悪く,結局すべてをお願いすることになってしまいました.日頃から英語を鍛えておくべきだったことを反省しました.
宿舎の選定
学内にある教職員用のアパートを借りました.当初私たちは市街地のホテルに滞在しようと考えていましたが,かなり早い段階で鄭先生から学内のアパートをおすすめいただいた(こちらから初めてメールした翌日「アパートを押さえておいたよ」と返信があった)ので,ご厚意に甘えることにしました.この選択は通学の面で非常に良かったです.香港科技大学は市街地から離れた山奥にあり,毎日通学に時間をかけるのは大変そうだと感じたためです.ただしアパートの宿泊費はそれなりにかかって,一泊1,300香港ドル (当時約17,000円)を二人で割って8,500円ほどでした.実は学内には学生寮があって,滞在期間が長ければ基本的にそちらに住めるのだそうですが,今回は短期であったので学生寮に住むことはできませんでした.
留学中の研究内容
留学中は自身の研究(複雑ネットワーク用の全頂点間最短距離問題)に取り組みました.
研究のスタートアップ
滞在が短期であったので,共同研究のようなことはしないだろうと予想していましたし,実際ありませんでした.とはいえ,自分の研究内容をゼミで発表するくらいのことはあるだろうということで,スライドと発表の準備を行いました.結果としてはそのようなゼミが開かれることはなかったのですが,この準備で,単純な言葉で簡潔に研究内容を伝えることを学び,帰国してからの修士論文の発表でも活かされた経験となりました.
研究を始めるにあたって,研究室のデスクトップとアカウントを貸していただいたのですが,私にとってはあまり使い勝手が良くなかったので,結局自分のパソコンで作業をすることにしました.このとき当然無線LANにつなぐのですが,東北大で取得していた eduroam のアカウントが大変役に立ちました.eduroam は世界中の大学等教育研究機関で利用されているキャンパス無線LANで,国内外を問わず1つのアカウントで相互利用が可能です.普段東北大の中だけで生活していると全く実感がありませんが,他の大学(特に国外)では本当に便利だと思いました.
研究の経過
基本的に個人での作業で,正直なところ日本でやっていたことと変わりありませんでした.主な内容は単純なグラフでの中心点は理論的にどの点であるかというもので,紙と鉛筆を使って図を書いて数式をいじってという感じでした.人と議論することはあまり多くはなかったですが,拙いながらも英語で話して図を書いて説明して意見を交わし,研究のアイディアを得ることができました.
研究室の雰囲気は日本のような感じで,非常に静かで研究に集中できました.学生が10人強ほどいて,みんな修士課程以上で学部生はおらず(他の研究室にはいるのかも),ポスドクの人が多いようでした.ポスドクの人たちはなんらかの形で収入を得ているようで,将来の不安はあまり無いとのことで日本との違いを感じました.また学生はみな中国本土出身ということで,彼らの背景を聞いていると,中国全土のエリートが本当に集まってきているという印象を受けました.
香港科技大学は研究面だけでなく,学内の厚生施設も充実していました.学食は朝から夜までやっており,400円くらい出せばかなり多い量が出てきておなかいっぱい食べられます.中華料理はもちろん,洋食も色々,和食も普通にありました.学内には夜遅くまでやっているスーパーマーケットもあり,その他にもたくさんの施設があって,一年間学内から出なくても生きていけるような環境でした.
このように研究をする上で大変恵まれた環境だったので,本当に規則正しい健康な生活が送れ,普段よりずっと研究が捗りました.
研究の成果
当初考えていた問題(単純なグラフでの中心点は理論的にどの点か)の答えを出すことができました.また,その答えを応用するととどういうことが起きるか(中心点を順に選んでいったとき,枝刈り幅優先探索で作られるラベルの個数がいくつになるか)を明らかにできました.そしてその応用をどう実現するか(中心点をどうやって計算機に見つけさせるか)を考え始めることができました.
研究進行で苦労した点
英語での説明・議論が最も苦労しました.英語で研究の話をすることを多少は覚悟していったつもりでしたが,思っていた以上にずっと困難で絶望しました.図を書いたり様々な違う言葉で言いかえたりすることでどうにかわかってもらえましたが,そもそも相手の話していることを聞き取れなくて何度も聞き返してしまうことが多く全くスムーズにはいきませんでした.
その他の研究のこと
研究室生活の最終日,鄭先生がニューヨーク大学の Boris Aronov 先生をお招きして,計算幾何学と代数学についての講義を提供してくださいました.私の主な研究とは異なる分野のお話でしたが,大変おもしろく感じ,新たな方面へ興味を持つことができました.
滞在2週目の3日間は,香港大学で開催された国際学会 (ISAAC) に参加しました.私は自分の研究と関連の深い講演 (Internet & Soical Network Algorithms と Graph Theory & Algorithms) を主に聞きました.私自身の研究に直接役立てられそうな話を見つけることはできませんでしたが,今世界ではどのようなことが興味を持たれ研究されているか,が知れて良かったです.また,実際の応用を前提とした研究であっても,発表を聞いていると,その基礎はかなり理論的な積み重ねを元にしていると感じました.その他にも色々と考えるきっかけを得られた大変貴重な機会でした.
留学中に触れた外国生活
言語
英語は世界共通語ですが,やはり相手の母語をしゃべることがすごく大事だと確信しました.香港では基本的に英語が通用します.学食や学内の売店ではレジのおばさんは普通に英語で応対してくれますし,むしろ私より英語ができて驚きました(歴史的背景を考えればそれほど驚くことではないのですが).香港でのコミュニケーションは基本的に英語で行いましたが,時折こちらから知っている中国語をしゃべるととてもうれしそうにしてくれました.逆に相手も知っている日本語を話してくれ,こちらとしては大変うれしく感じました.私はまだまだ英語すら満足にできませんが,それでも色々な言語に挑戦したくなりました.ちなみに香港の現地の人は標準中国語(普通話)ではなく広東語を話すのですが,私には全く聞き取れませんでした.こちらが話す普通話はわかってもらえるのですが,口頭でのコミュニケーションは難しかったです.
食事
中国では基本的に食事は外食と聞いていましたし,香港もそうでした.外食はいいのですが,朝から中華料理なんてとても食べられないだろうと心配していました.ですが違いました.香港での朝はお粥が定番です.ピータンや干し貝やピーナッツが入っていて,これがものすごくおいしいのです.滞在中は学食のお粥が楽しみで生きているようなものでした.こればかりは日本に帰って来たことが本当に残念です.
それと香港の箸は日本のものより長く太くてなかなか食べづらく,さらに食器を持ってはいけないという習慣なので余計に大変でした.食べ物自体は基本的においしく,学食ですらレベルが高かったのでそこはうらやましいです.
決済方法
香港ではクレジットカードがほとんどの場所で使えると聞いていたので,私は現金をほとんど持って行きませんでした.基本的にカードで払って,現金が必要になったらカードの海外キャッシングを使えばいいだろう,と思っていたのです.これが失敗でした.香港では“八達通 (Octopus)”という非接触ICカードが一番主流な決済方法で,至るところでこれを使います.外国の紙幣や硬貨は判別が難しいのでこれは大変便利なのですが,現金であらかじめチャージしてからしか使うことができないため,みるみるうちに現金がなくなってしまい,自前のキャッシング枠では間に合わなくなってしまいました.現金を確保する手段を色々と調べたのですが,どれも現地の銀行口座を必要とするものばかりでもうダメかと思いました.しかし,最終的にはウエスタンユニオンの送金サービスを利用することでなんとか切り抜けることができました.日本では名前を聞いたことがなかったのですが,他の人から送金してもらえば,パスポートと暗証番号さえあればお金を受け取れるという大変便利なものでした.
留学により得たもの
研究を第一に考えて留学に行きましたが,終わってみれば,それ以上に国際性を得られたと感じています.まず自分が世界でどの程度のレベルなのか.世界トップの学生というのはとんでもなくハイレベルで,彼らとまともにぶつかり合うのは賢い選択ではないと実感できました.また自分の英語のレベルの低さを思い知らされました.頭のなかではそこそこしゃべれるつもりでも,実際に使ってみると全く使い物になりませんでした.この体験でもっと英語を勉強しなくてはならないという必要性が身にしみてわかり,やる気を得ることができました.
それと,外国で暮らすことの大変さがわかりました.思っていた以上に,日常のなんでもないことが一人でできず,大変惨めな思いをすることが多かったです.その点日本に来ている留学生は本当にすごいと思い,敬意を持って彼らを見るようになりました.日本は留学生にとって過酷な環境であると思います.日本語は全く訳の分からない言語だし,日本人で英語ができる人はかなり少ないです.せめて彼らに対して親切にありたいと考えるようになりました.
私はかなり短期の滞在でしたが,それでも慣れない環境はなかなかに大変で,精神的・体力的に少し鍛えられたことも今回得られたものの1つです.
「外国人になる」ということがよくわかった,本当に良い機会でした.
お礼
今回の留学では普通ではできない経験を積むことができ,今後の人生に必ず活きてくることは間違いありません.このような大変貴重な機会を提供してくださった森山先生,本当にありがとうございました.金銭面でこの留学を援助くださった日本学生支援機構と東北大学情報科学研究科に感謝いたします.香港科技大学の鄭先生,色々と面倒みていただきありがとうございました.ご理解・ご尽力くださった徳山先生,塩浦先生,全先生,本当にありがとうございました.そして宮下さん,ずっと迷惑ばかりかけましたが本当にお世話になりました,ありがとうございました.