経験者の声
Information
氏名 Name | 青木悠輔 Yusuke Aoki |
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学年 Grade | 情報科学研究科修士1年 GSIS M1 |
指導教員 Supervisor | 周暁 Xiao Zhou |
留学期間 Stay | 平成25年12月3日-平成26年1月24日 Dec. 3rd, 2013-Jan. 24th, 2014 |
受入先 Destination | Reykjavik University School of Computer Science |
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はじめに
東北大学大学院情報科学研究科修士1年の青木 悠輔です. 2013年12月3日から翌1月24日までの2ヶ月間,アイスランドのReykjavik University School of Computer Science に留学させていただきました.
今回は,その体験談を記してみようと思います.
留学を思い立ったきっかけ
私は元々,漠然と"海外"というものに極端な憧れがあり,とにかく海外に行ってみたいという気持ちが大学院に進学する前からあったように思います.研究室の先輩方から海外留学の経験談を聞く度に,その憧れは強くなっていっていきました.
そして本格的に留学を思い立ったのは,卒業論文を提出し,大学院に進学した時期でした.恥ずかしながら当時の私は,研究においては指導教員である周暁教授(以降,周先生)に頼りきっていた面が強く,私自身の主体性や積極性が不足していたように感じていました.そこで一度,日本語が通じず,主体性が強く要求される環境に身を置くことで,短期間で成長できるのではないだろうか,と考えました.
以上のような動機で伊藤健洋准教授(以降,伊藤先生)に留学について伺ったところ,本プログラムを紹介され,留学するに至りました.
留学先の選定
当然のごとく私は,海外の研究者の方々とはまるで面識がなく,留学先の選定を私自身で行うことは困難でした.海外の大学の名前すらいくつ知っているか怪しいレベルの私は,研究室の先生方に留学先を紹介して頂くようになりました.その中で,伊藤先生にReykjavik University(アイスランド)のMagnús M. Halldórsson教授(以降,Magnús先生)を紹介して頂きました.
Reykjavik Universityの数ある研究科のうち,School of Computer Scienceは東北大学の情報科学研究科と協定を結んでおり,周先生や伊藤先生もMagnús先生と面識があったこと,そして当時の私の研究でMagnús先生の論文を複数参照しているなど研究分野が近かったことが主な理由であったように記憶しています.
本制度では受入教員の許可を私自身で得なければならないため,Magnús先生とコンタクトを取り,留学させて頂きたいという旨をお伝えする必要がありました.一般的にはメールを用いることと思いますが,私の場合は直接お会いして挨拶し,留学受入のお願いをするというやや異色な手段を取りました.というのも,その時松島で開催された国際学会にて,Magnús先生が招待講演という形で参加されていたためです.私は学会に出席し,招待講演が終わった直後に,伊藤先生と共に直接挨拶に向かいました.先方からしてみれば,伊藤先生に紹介されたとはいえ,初対面の学生が突然「留学させて下さい」と言いに来るという奇妙な状況だったと思われますが,Magnús先生は終始笑顔で了承して下さいました.
その後は改めてメールで挨拶をし,留学を希望する時期や,留学制度の詳細(必要経費は全てこちらが負担する旨など)をお伝えしました.このやりとりで初めて時期が確定し,12月から翌年1月にかけての二ヶ月間で留学することとなりました.あとは何度かメールを交わし,細かい日程等を調整しました.英語でメールを書くことはあまり無い経験でしたが,返信するメールに盛り込むべき内容が分かりやすいような形のメールを常に頂けたため,必要な情報を伝えるのに高度な英語力は要求されなかったように思います.とはいえ,やはり本文の作成には毎回かなりの時間を費やしました.失礼に当たらないような言い回しをひたすらインターネットで検索していた記憶があります.
このように,ほぼ全てのステップを,周りの方々の親切さと,ある種の運が良さで乗り切ってしまった印象が強いです.何はともあれ,自分の意思を明確に示すことが大切かと思われます.
宿舎の選定
Reykjavik Universityには,寮などはありませんでした.よって宿はどこか街中で選ぶ必要がありましたが,こちらもMagnús先生がかなり早い段階でReykjavik Universityの事務の方に掛け合って下さり,そこからレイキャビク市内の宿に関する情報をメールで頂くことができました.
二ヶ月間という短い期間でアパート等を借りることは困難に思えますが,レイキャビクには多数のゲストハウスがあり,短期間の滞在でもホテルより遥かに低価格で泊まることができました.先方から頂いたメールの中に,主要なゲストハウスの情報が一覧で記されていたので,予算の範囲内で以下のような条件を満たす物件を探しました.
- 一人部屋が借りられること.
- 部屋でWiFiが使用可能であること.
- 台所と洗濯機が使えること.
こうして並べてみると何とも贅沢な願いに見えますが,大半のゲストハウスがこれらの条件を全て満たしていたので,最終的には立地で絞り込むことになりました.
その後はゲストハウスの連絡先へ直接メールを送り,留学生として二ヶ月間滞在したいことと,シングルルームを希望することなどを伝え,合計の価格やチェックインの方法などを確認しました.二ヶ月間も同じ部屋を使うケースは,旅行客ではなかなか無いことなので,ホームページのフォームから予約するよりも,直接メールで連絡を取った方が賢明だと思います.
結果的には一ヶ月7.5万円程度でシングルの部屋を借りることができました.シャワーやトイレは他の部屋と共用でしたが,予算範囲内で上記の条件をすべて満たす,学生に優しい作りでした.
渡航準備
二ヶ月間という短い期間であればVISAは必要なく,Magnús先生にinvitation letterも用意して頂いたため,宿舎及び飛行機の予約を終えてしまうと,早い段階で研究以外に準備することは無くなり,あとは渡航当日を待つのみとなりました.
しかし思い返してみると,スーツケース等の準備はもっと早めに行うべきだったと感じます.当日空港でスーツケースが重量制限を超過していることが発覚し,大慌てで荷物の詰め直しを行うという慌ただしい出発になってしまいました.
留学中の研究内容・大学生活
国内で長らく行っていた研究内容をそのまま留学先へ持って行くという選択肢もありましたが,私は留学にあたり新しく別の研究テーマを選びました.具体的には留学の一ヶ月前に,新しい研究テーマに着目し,それに対する既存研究結果の調査やおおまかな研究計画の立案を一ヶ月で行ってから留学に向かいました.私自身の研究結果というものは殆ど無い状態で留学先へ向かい,留学期間中にほぼ一から研究を進めたことになります.私自身でスイスイ研究を進められるような段階に達していないため,必然的に討論を頻繁に行い,一つ一つ確認しながら研究を進めました.
具体的な二ヶ月間の研究生活について,もう少し詳しく書きたいと思います.
渡航の翌日からレイキャビク大学へ伺い,居室やその他設備の説明を受けました.その後は,Magnús先生ならびにポスドクやPh.Dの先生方複数人の前で,私の研究テーマ,及び二ヶ月間の研究計画について,簡単にプレゼンする機会を与えて頂きました.Powerpointなどは使わずホワイトボードのみを用いたものでした.
私は扱っている問題や既存の研究結果,そして私が着目している課題について説明しました.当然ながら大変に緊張しましたが,最初の説明については留学前や行きの飛行機内でかなり入念に準備をしており,また話を聞いている先生方も私の拙い英語から真意をすぐに汲みとってくれたこともあり,あまり説明に苦しむことは無かったように思います.
説明を行った後,まずはこの辺りからアプローチをしていくのがいいのではないか,といった提案をMagnús先生から複数頂きました.
その後の討論は,基本的に先方からではなく,私の方から持ちかけることで行われました.具体的には,研究の進捗内容がまとまったところで私の方からMagnús先生やポスドクの先生方のところへ伺い,討論をお願いする形でした.何曜日に定期的に討論を行うだとか,一週間に何回行うといったスケジュールは別段設定されておらず,タイミングはほぼ全て私の意思に委ねられていました.
クリスマス休暇直前の時期・講義の中間考査の時期ということで,12月上旬は,Magnús先生がご多忙だったためポスドクの先生方と討論する機会の方が多かったように思います.こちらも私の方から持ちかける形でした.頻度としては2~3日に一度くらいだったと感じます.
多くの場合討論は,"今後検討すべき課題"が見つかるまで行いました.故に討論を終えると,ほぼ必ず私の手元には検討すべき課題があり,それを検討したらその結果をもとにまた討論を行い……という形で頻繁に討論を交わしました.ポスドクの先生方とはよく昼食を一緒に取っていたため,昼食時の雑談として研究の話が挙がることもありました.
Magnús先生は先述の通りご多忙でしたが,「少し結果がまとまったので討論をしたい」という意思だけお伝えすると,時期によっては都合の良い時間帯を指定して頂き,討論して頂ける機会がありました.こういう状況では遠慮をすべきか迷うところですが,私は基本的に自分の意思を明確に示し,無理なら断って頂こうという考えで動きました.しかし,ご多忙の中時間を割いて頂いたにも関わらず,私の説明の手際が悪く,説明が冗長になってしまうことに苦しみました.
ちなみに討論は,初日の説明を除き,いつも1対1で行いました.複数人の都合が合う時間帯が稀であったことが主な要因として挙げられますが,複数人での討論を行うことができなかったのは少し心残りです.
初めの一ヶ月間,討論は頻繁に行い,問題の困難性に対する理解は深まったものの,あまり実のある結果を得られぬままクリスマス休暇に入ってしまいました.クリスマス休暇になると先生方が誰一人大学にいらっしゃらないだけでなく,大学そのものが封鎖されて中に立ち入ることができなくなってしまいます.Magnús先生はクリスマス休暇前に,今後は少しアプローチを変えようという提案と,それにあたり検討できる課題を複数与えて下さいました.言わば冬休みの宿題のようなものです.
休暇はしっかり休むべきだったのかもしれませんが,私はクリスマス休暇中も,平日に限り喫茶店などで多少研究を行いました.あまり研究結果が出ていなくて焦ったのだと思います.基本的に一人なので討論を行うことはありませんでしたが,進捗をMagnús先生に定期的にメールで報告し,アドバイスを頂くようにしていました.
クリスマス休暇が明け,1月になると,研究が軌道に乗り始めいくつかアルゴリズムを立案できました.休暇前にMagnús先生から提案されたアプローチが,うまく結果に結びついた形となりました.残りの滞在期間が1ヶ月を切ったこともあり,12月よりも頻繁にMagnús先生と討論を行い,細かな部分を確認して頂くようにしていました.週によっては数日間連続でMagnús先生のもとへ伺うこともありましたが,Magnús先生はお忙しい中時間を割いて下さり,いつも親身になって相談に乗って下さいました.
最終週に,二ヶ月間で得られた結果を簡単に振り返りつつまとめ,それまでと同様に今後検討すべき課題を頂き,留学中の研究生活は終了となりました.なお,研究結果に関する細かな正当性の証明などを検討する時間が無かったため,それらもまた帰国後の研究で行うこととなりました.帰国後は,取り急ぎ得られた結果に関する正当性の証明を行うことを念頭に置いています.
渡航前,英語で自分の研究について話すということは,極めてハードルが高いことであるように感じていましたが,いざ行ってみると,研究に関する話はホワイトボードに図や数式を書くことで説明を補うことが可能で,言語の違いによって生じる説明の難しさは比較的小さい部類に思えました.また,Magnús先生もポスドクの先生方も本当に優しく,私の拙い英語による説明から素早く私の真意を汲み取り,補足をしてくれたり,答えやすい質問を返してくれました.以上のように環境に恵まれていたこともあり,意思を伝える面での難しさはあまり感じませんでした.英語力の問題よりも,初めのうちは物事を話す順序や手際が悪く,冗長な説明となってしまうところに難しさと申し訳無さを覚えました.
ちなみに英語力が要求されるのは,研究の話ではなく,昼食時の雑談だと思います.ポスドクの方々や,昼食の席で近くに座った幾人かの教授とも雑談を交わしましたが,結局これは最後まで満足できるレベルに達しなかったように感じます.
アイスランドでの生活
アイスランドでは,休日は皆休むことが当たり前となっているため,休日に大学に行ったところで人は殆どいませんでした.そういった事情もあり,休日は主に市街地へ出かけていました.アイスランドは物価が高く,派手に遊ぶには金銭的な面で覚悟が要求されるため,主にレイキャビクの街中を散歩してひたすら写真を撮ったり,カフェを巡ったりという,なんだか素朴な観光を続けていました.
とはいえそれだけでは少々味気ないので,クリスマスの長期休暇中には何度かレイキャビクの外への観光にも出かけました.バスツアーに参加すると,何も考えなくても有名な観光地を3つ程回ってくれるので,事前に色々と調べなくとも名所を巡ることができました.
12月から1月という留学期間は,クリスマス休暇や年越しを含むなど,留学時期として適しているのか,人によってはなかなか難しいところかもしれませんが,時期的にアイスランドの年越しイベント(打ち上げ花火)やオーロラも見ることができたので,人生経験としては非常に面白い二ヶ月だったと思います.
なお,休日も機会があればなるべく街の人と話すようにしていました.アイスランドはアイスランド語が公用語となっていますが,大学の事務の方々からスーパーの店員に至るまで皆基本的に英語が話せるため,出先でも英語で会話を交わしていました(残念ながら二ヶ月でアイスランド語で会話を交わすまでには至りませんでした).同じ宿に宿泊していた方々とも,共用の台所などで会った際によく話していました.英語力が向上したかは判断に困るところですが,話しかけようという積極性は大幅に向上したと感じます.
おわりに
日本に帰国する際に感じたことは,二ヶ月間という期間は短かった,もう数ヶ月くらい居たかった,といったものでした.ちょうど研究も軌道に乗り始め,アイスランドでの生活や英会話に慣れてきた頃に,帰国のタイミングが来てしまったという印象でした.
しかし振り返ってみると大変密度のある二ヶ月間で,研究自体も大幅に進みましたし,研究以外の面でも多くのスキルや積極性を得ることができたと感じます.
突然のお願いだったにもかかわらず快く受け入れて下さり,準備等様々な面でサポートして下さったMagnús先生や,研究ならびに日常生活を大変充実したものにして下さったReykjavik University School of Computer Scienceの皆様には,本当に感謝しております.
また,周先生,伊藤先生,森山先生には,留学先や制度の紹介から具体的な手続きに至るまで,様々な面で支援頂きました.ありがとうございました.
拙い文章でしたが,以上になります.
今後,海外留学を考えている方への参考になれば幸いです.