東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University 東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University 東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University 東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University
 
 
 
 

#03 研究者、駈ける。 Days of Aobayama#03 研究者、駈ける。 Days of Aobayama

次世代ネットワークは“つながる”から“つくる”へ。 西山 大樹 東北大学大学院 情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授 次世代ネットワークは“つながる”から“つくる”へ。 西山 大樹 東北大学大学院 情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授

つなげられなかった反省を
原動力に。

つながりたいのにつながらない-東日本大震災では、被害状況や避難場所、安否確認といった正しい情報にアクセスできない不安と焦燥に苛まれた被災者が多かった。携帯電話基地局に限れば、東北・関東地方にある約13万2千局の内、最大で約2万9千局が停波したという。そのほとんどが東北地方の基地局だ(総務省)。未曽有の災害は、私たちに多くの教訓を残したが、ここにも「つなげられなかった」ことに深く思いを至らせる研究者がいた。情報通信技術を専門とする西山大樹准教授である。

通信インフラに依存せずネットワークを構築する手段はないものか…。アイデアは元々あった。個々のスマートフォンのWiFiを介して、数珠つなぎのようにネットワークを形成し、バケツリレーのようにデータを伝達する。名付けて『スマホdeリレー™』。仕組みはこうだ。端末間のマルチホップリレー通信を実現する技術として、MANET(Mobile Ad-hocNETwork) とDTN (Delay/Disruption-TolerantNetwork) がある。それぞれに長・短所を持つ2つの異なるネットワーク形成技術を補完し、効率的かつ省エネルギーな通信をめざす。周囲の状況に合わせて適切なネットワークを自動的に判断して形成するアルゴリズムを備えている点が、本研究の独自性だ。使用者が操作する必要はない。

通信インフラ未整備の地に
新しい可能性を。

『スマホdeリレー™』は、西山准教授らのグループが基礎研究から開発、実験・評価までを担っている。数年先の実用化を視野に入れた大規模な実証実験では、スマートフォンのみでローカルなネットワークを自由自在に形成することに加え、移動体(ドローン、小型無人航空機、車両)との相互接続によって、遠隔地を含めた双方向の情報共有に成功している。さらには『スマホdeリレー™』第二世代の端末を車両に搭載することで、歩行者と接続する歩車間通信の実験にも成功。昨今話題の自動運転技術や安全運転支援を前進させる要素技術のひとつとして名乗りを上げた。

2016年8月には、“台風銀座”といわれるフィリピンのサン・レミジオ市において『スマホdeリレー™』を用いたデモンストレーションを実施。災害時の被災者情報収集に大きく役立つことを実証した。また、通信インフラの整備が不十分な土地柄とて、日常の通信手段としても需要があることを確認できた。世界中の人びとが等しく通信の利便性を享受できる社会に向けて、自分たちの試みは大きな可能性を持っている―実験に携わった学生たちは研究者/技術者としての自覚と自信を抱いたようだ、と西山准教授は語る。教え導く者として冥利に尽きる瞬間だ。

大学とは自分自身と向き合い、
鍛える場。

数学が得意な少年だった。友人たちに乞われて数式の解き方を教える。「わかった」と言ってもらえる喜び、思案顔には工夫を凝らして説明し、理解を引き出す。いつの頃からか数学の教師になりたいと思うようになった。担任教諭からは「数学よりも英語を頑張ったほうがいい」と釘を刺される。この言葉が身にしみるのはもう少し後になってからだ。

修士課程の折、国際会議で研究成果を発表する機会を得た。プレゼンテーションは乗り切ったものの、質疑応答では…うまく対応できないまま時間切れとなった。英語によるコミュニケーション能力を鍛えなくては、と発奮し、博士課程へ。ここで改めて“解がないものに挑む”研究のおもしろさに開眼する。やりたいことを自由にさせてもらえる風土も幸いした。基礎研究からその先へ。応用・開発し、社会実装、そして寄せられる評価から新しい課題を見出し、また基礎研究に戻る…飽くなきループ型の取り組みが、科学技術を力強く前進させていく。新しい価値を創造する面白さと醍醐味を、もっと多くの学生たちに体感してほしいと西山准教授は願っている。

私生活では一男二女の父でもある。朝は、子どもたちを学校・保育園に送り届けてから出勤する。自然体で育児にかかわる“イクメン”が、次はどんな技術を生み育てるのか、注目だ。