人間情報哲学
人間社会情報科学専攻
人間情報哲学 C04 Philosophy of Human Information
世界に住むことについての哲学的アプローチ
2011年3月の東日本大震災は人びとに衝撃を与え、多くの問題を考えさせるきっかけとなりました。本研究室では、20世紀の傑出した哲学者マルティン・ハイデガーとハンナ・アーレントの思索を手がかりとして、現代世界の危機についての原理的考察を行ない、哲学の可能性を切り拓いていきます。
われわれがこの世に住んでいるということは、ごく当然に見えて、哲学的に十分解明されてきたとは言えません。ハイデガーは、世界内存在という根源的事実から出発して、われわれの日常性を現象学的・存在論的に分析しました。これを承けてアーレントは、働くこと(労働)、作ること(仕事)、為すこと(活動)という、活動的生の基本的な区分けを打ち出しました。なかでも、為すことは、語ること(言論)と一緒になって、人間的共生の基本形を形づくります。知識獲得や情報伝達に先立って、人間とは「ロゴスをもつ生き物」にして「ポリス的生き物」です。公的に語り合うことの意味を考えることは、政治哲学の中心課題なのです。
また、人間は、自然的存在でありながら、自然とは異なる人工的世界を作り、そこに住み、その住まいを保ってきました。人びとの生活の場である世界が、いかに脆いものであるか、それゆえ、世界を守り、大切にし、次世代に伝えてゆくことが、いかに重要な責務であるかを、われわれは3・11の経験から思い知らされました。世界が危機に瀕しているときこそ、世界を愛する仕方を学ぶチャンスなのです。
現代日本における哲学の可能性は、思いがけない豊かさをたたえています。そのことを、古今の思想的伝統にじっくり身を開きつつ、ともに愉しく学んでゆきましょう。
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訳書:アーレント『活動的生』と『革命論』、ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』
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ハイデガー『技術とは何だろうか』の訳書とその注解書