【プレスリリース】物理法則に潜む速度限界を発見 あらゆるスケールに成立する普遍的不等式を証明

 

【ポイント】

●これまでの長年の研究の結果から「量子速度限界」と呼ばれるミクロなスケールの運動に関する不等式の存在が知られていた。
●不確定性原理との関連から、量子力学特有の性質として長い間に渡り、ミクロなスケールでのみ成立すると信じられてきた。
●本研究成果では、同等の不等式が我々の普段目にするようなマクロなスケールでの集団現象においても普遍的に存在する不等式であることを明らかにした。

【概要】

 我々の身近な物理現象を記述するニュートン力学に対して、原子や分子などミクロなスケールにおいては量子力学という異なる原理が成立しています。不確定性原理と呼ばれるミクロなスケールにおいて発現する特性が量子力学の形成に関わっています。
 この量子力学に従うミクロなスケールでの運動において、「量子速度限界」と呼ばれる制限が存在することが知られていました。この量子速度限界は長らく量子力学特有の現象であり、そういった運動の制限はミクロなスケールでのみ存在するものと信じられていました。東京工業大学と東北大学からなる研究グループは、量子力学の基本から見直すことで、量子速度限界の根本的起源が、量子力学特有の現象を引き起こす不確定性原理にはなく、様々な現象を記述する運動方程式に広く成立するものであることを明らかにしました。その結果、マクロなスケールにおける集団現象の振る舞いを記述する多種の方程式において様々な速度限界を発見しました。本研究成果をきっかけに、様々な運動に関係した普遍的な原理の解明が進むことが期待されます。本研究成果はアメリカ物理学会が発行するPhysical Review Letters誌(2018年2月9日号)で公開されます。

 

論文情報
TITLE: Quantum Speed Limit is Not Quantum
日本語タイトル:量子速度限界は量子力学特有の現象ではない
著者:奥山 真佳(東京工業大学 理学院 物理学系 物理学コース博士課程1年)、大関 真之(東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授)
掲載誌:Physical Review Letters

 

【研究費支援】

 本研究は、特別研究員奨励費「有限時間における量子アニーリングの性能評価」(研究代表者:奥山真佳、課題番号17J10198)、内閣府革新的研究開発推進プログラム ImPACT「量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現」、基盤研究(B)「量子制御技術のための制御・量子・情報理論の融合」(研究代表者:津村幸治、課題番号:16H04382)、挑戦的萌芽研究「詳細釣り合いの破れが生み出す革新的機械学習アルゴリズム」(研究代表者:大関真之、課題番号: 16K13849)の支援により行われたものです。

【語句説明】

(注1) 不確定性原理
 ミクロなスケールにおける原子や分子の位置に関する測定結果のバラツキと運動量の測定結果のバラツキの両者の積をある普遍的な数値よりも小さくすることができないという原理です。似たような関係式を持つものにエネルギーと時間の不確定性“関係”と呼ばれるものが存在します。原子や分子の持つエネルギーのバラツキ度合いと異なる状態へと変化する際にかかる時間の積が普遍的な数値よりも小さくすることができないとするものです。この関係から量子速度限界が導かれるのですが、注意深く考察をすると、量子力学の根本的な原理である不確定性原理とは全く別個に示される性質であることがわかります。本研究成果でもその点に注目することで研究活動が展開されました。

 

(注2)量子速度限界
量子力学では、原子や分子のミクロなスケールにあるものの状態を記述するベクトルの時間発展を調べます。この時間発展が満たす方程式をシュレーディンガー方程式と言います。このシュレーディンガー方程式に従い、ある初期状態から、その状態と最も異なる状態までに変化する時間を見積もると、これ以上は短くはできないという限界が見つかります。これを量子速度限界と呼び、MandelstamとTammが1945年に発見しました。またやや異なる形のものをMargolusとLevitinが導出して、近年の量子制御技術の高まりと共に注目されています。

 

 

大学プレスリリース http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2018/02/press20180206-01.html

プレスリリース原稿