東北大学 大学院情報科学研究科シンポジウム 情報科学から健康・医療・創薬を考える

情報科学で、よく生きる。

木下 賢吾 教授

講演のテーマ・内容に関するQ&A

各講演に関してお寄せいただいた質問に講演者が回答しております。
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  • Q

    ゲノム情報を提供してくださった提供者の方に対し、疾患の関連性についての情報を返却する時、どのような基準で返却する疾患を決めているのですか? 返却したいけれど、エビデンスが足りないために返却できない疾患もあるのでしょうか?

    A

    情報の返却を受けた結果、何らかの治療につながるようなアクションを起こすことができるかというのが、返却するかどうかの一番大きな基準になります。当然のことながら、エビデンスが確立したものに関してアクショナブルなものを返すというのが大前提になります。
    ここで考えなければならないのは、何がアクショナブルなのかという点です。認知症を例に挙げると、発症率が80%程度とされるApoE変異という遺伝子変異があります。エビデンスという点ではとても強い変異なのですが、一方で、認知症に関する治療法は未だ確立されていないという現状があります。とはいえ、かなりの確率で認知症になるということを知ることが、人生設計の再考につながるかもしれません。これもある意味アクショナブルなこととは言えないでしょうか。文化的な背景、個人の価値観、知りたくないという権利の保護といった視点など、情報の返却についてはさらなる社会的議論が必要だと思います。

  • Q

    メディカルメガバンクの活動は今後も東北地方のみでしょうか? スパコンの計算力が上がれば、全国展開や世界展開の可能性もあるでしょうか?

    A

    東北メディカルメガバンク機構の活動は今のところ宮城県と岩手県でしか行われていません。これを全国に広げるには、スパコンの能力ももちろん必要ですが、それ以上に、大きなマンパワーが必要になります。私たちの機構では、330人の人員で15万人のコホートを維持していますが、これを仮に100万人コホートに拡大しようとすれば、現在の10倍、3000人以上のスタッフが必要になるでしょう。現実的な方向性として今活発に議論されているのが、全国津々浦々にある小規模・中規模コホート間の連携です。それらを束ねることで、バーチャルに100万人コホートを目指すというものです。

  • Q

    ゲノムに基づく個人ごとの疾病予防は、日本ではいつ頃から一般的になりそうですか?

    A

    これは疾患によって違いがあります。がんに関しては、ゲノム医療はすでに保険医療として実現しています。がん組織を手術で取り除いた後にゲノム解析を行い、原因になる変異はどこかを調べ、その変異に基づいて適切な抗がん剤を処方するというのが普通に実施されています。
    病気予防などを含めるとまだ難しいところがありますが、ある特定の疾患では今後数年ぐらいである程度社会的に認知されていくのではないでしょうか。生活習慣が深く関係する糖尿病などの場合、ゲノム解析であなたはリスクがどれくらいあるから生活習慣に気をつけましょう、ということになると思います。そうした情報を伝えた時、過敏に反応する方もいれば、ほとんど行動が変容しない人もいます。その点では、メディアも含め、どう情報を伝えていくのかというのも重要な課題だと思います。